午前3時。部屋の明かりを小さくして、つむぎはりくを抱きました。
授乳が終われば眠れる。そう思っていたのに、げっぷを待って、寝床に戻して、少し泣いて、また抱いて。ようやく静かになったころには、つむぎの目だけが冴えています。
時計を見ると、次の授乳まであとどのくらい眠れるのかを計算してしまいます。
「寝たい。でも、またすぐ起きる」
授乳で寝不足がつらい夜は、赤ちゃんが寝ない悩みだけではありません。授乳する人だけが何度も起き、体も気持ちも細切れになるつらさがあります。母乳でも、ミルクでも、混合でも、夜の対応が一人に寄り続けると、親の余裕は削られていきます。
今夜は、授乳をやめるか続けるかを急いで決める話ではありません。授乳の前後にある準備、片づけ、寝床に戻すこと、翌日の家事、相談先を分けて、授乳する人の眠りを少し守る話です。
授乳で眠れない夜に、まず分けたいこと
授乳が必要な時期には、夜中に起きること自体をすぐゼロにはできない日があります。だからこそ、最初に見るのは「どうしたら一晩中起きなくてすむか」ではなく、「授乳する人だけが全部を持っていないか」です。
夜のつらさは、いくつかに分けられます。
- 授乳やミルクで起きる時間
- おむつ替え、げっぷ、着替え、寝床に戻す時間
- 赤ちゃんが寝たあと、親が再び眠れない時間
- 翌朝、普段通りに家事や仕事を求められる負担
- 体調や哺乳量への不安を一人で抱える時間
この全部を、つむぎ一人が持つ必要はありません。母乳で授乳している場合でも、航平ができることはあります。水を用意する。おむつを見る。授乳後の片づけをする。りくを安全な寝床に戻す。翌朝の家事を減らす。相談先を一緒に確認する。
授乳は、赤ちゃんと授乳する人だけの閉じた時間に見えやすいものです。けれど、夜を越える仕組みは家族で作れます。
つむぎの本音ノート
授乳は私にしかできない部分があると思うほど、その前後のことまで全部私がやらなきゃいけない気がしていた。でも、本当は分けられるところが残っていた。
つらさを一つに決めつけない
寝不足が続くと、「授乳のやり方が悪いのかな」「ミルクを足すべきなのかな」「私が弱いだけかな」と、原因を一つに決めたくなります。けれど、授乳の夜のつらさは、赤ちゃんの状態、親の体、家族の分担が重なって起きることがあります。
| 見るところ | 起きているかもしれないこと | 今夜の見方 |
|---|---|---|
| 赤ちゃんの様子 | 空腹、飲み疲れ、げっぷ、暑さ寒さ、体調の変化 | 哺乳、尿や便、顔色、呼吸、吐き戻しを確認する |
| 授乳する人の体 | 眠気、肩や腰の痛み、乳房の痛み、不安、涙が出る | 我慢で続けず、助産師、保健師、小児科などへ相談する目安にする |
| 夜の流れ | 授乳後の片づけ、寝床に戻す、泣いたときの対応が全部一人 | 授乳の前後を家族で分ける |
| 翌日の負担 | 寝不足のまま家事や仕事が普段通り残る | 朝の家事、買い物、食事作りを一つ減らす |
| 気持ち | 眠れない焦り、孤独、責められている感じ | 授乳方法の評価ではなく、休息と支えの不足として見る |
授乳以外のつらさが大きい夜は、次のページが使えます。
- 寝ない理由を広く整理する:赤ちゃんが寝ない夜に読む、原因と今日できる小さな対処法
- 夜泣きへの交代と翌朝の負担を決める:夜泣きにどう対応するか迷う夜のノート
- 抱っこを安全に区切るタイミングを見る:抱っこじゃないと寝ない夜のノート
アサヒナメモ
授乳方法を急いで正解・不正解に分けなくて大丈夫です。まずは、赤ちゃんのサイン、授乳する人の体、家族で分けられる作業を別々に見ます。
今夜できる小さな分担
夜間授乳がつらいとき、授乳する人に「もっと休んで」と言うだけでは足りません。休める形を、具体的な作業に分けます。
授乳中・授乳後に大人の眠気が強いときは、ソファや椅子で赤ちゃんを抱いたまま眠らないことを先にします。1歳になるまでは、医療上の理由で別の姿勢を指示されている場合を除き、硬めで平坦な寝床へあお向けに寝かせ、顔まわりに枕、掛け布団、ぬいぐるみ、タオルなどを置きません。ひとりで寝床へ戻せないほど眠いときは、もう一人を起こすか、赤ちゃんを安全な寝床へ戻してから休みます。
授乳前を渡す
おむつを見る、照明を整える、水を用意する、クッションやタオルを手元に置く。授乳が始まる前の小さな準備を、授乳しない人が持ちます。
授乳後を渡す
片づけ、哺乳瓶の準備や洗い物、寝床に戻す流れ、メモを残すことを分けます。授乳した人がそのまま全部起き続けない形にします。
次の睡眠を先に決める
授乳が終わってから相談すると、眠気で言葉が出ません。「次は私が30分横になる」など、夜の前に決めておきます。
朝の家事を減らす
夜に起きた分、朝は普段通りにしない前提にします。洗濯、掃除、買い物、朝食づくりのどれか一つを減らします。
航平に頼むなら、長い説明はいりません。
授乳で何度も起きて、かなり眠い。
授乳後の片づけと、りくを寝床に戻すところを代わってほしい。
そのあと30分だけ、私は横になりたい。
授乳しない人が「授乳は代われないから」と引いてしまうと、夜全体が授乳する人に寄ります。代われない部分があるからこそ、代われる部分を先に見つけます。
航平のひとこと
授乳そのものを代われない場面があっても、何もしない理由にはしたくありません。授乳前後の準備、片づけ、寝床に戻すところは、僕が持てるようにします。
母乳・ミルク・混合を、勝ち負けにしない
寝不足が続くと、「母乳だからつらいのかな」「ミルクにしたら楽になるのかな」「混合にしたら負けなのかな」と、授乳方法まで自分の評価に結びつきやすくなります。
けれど、授乳の形は家庭によって違います。赤ちゃんの体重、哺乳の様子、親の体調、仕事復帰、きょうだい、周囲の支え、医師や助産師からの助言。いくつもの条件があります。
大切なのは、眠れない親をさらに責めるために授乳方法を語らないことです。
- 母乳を続けたい気持ちがあっても、つらさを相談していい
- ミルクを使う選択を、親の努力不足にしなくていい
- 混合にするかどうかは、赤ちゃんと親の状態を見ながら相談していい
- 授乳量、体重、尿や便、吐き戻しが心配なら、家庭だけで判断しない
- 親の眠れなさや涙が続くなら、授乳方法だけでなく休息と支援も相談する
こども家庭庁や厚生労働省は、授乳・離乳に関する情報や支援ガイドを案内しています。授乳の形を変えるかどうか迷うときは、ネット上の体験談だけで決めず、助産師、保健師、小児科、自治体の相談先につなげて大丈夫です。
つむぎの本音ノート
授乳の話になると、私の頑張りを見られている気がしていた。でも、本当はりくのことと、私の体のことを一緒に見てもらっていいんだと思いたい。
授乳する人の眠りを少し戻す工夫
夜間授乳が続くと、眠る時間はあっても、まとまって眠れないことがあります。細切れの睡眠が続くと、日中の判断、涙もろさ、怒り、不安に影響します。だから、授乳する人の睡眠は、あと回しにしない方がいいです。
眠れる時間を予約する
「空いたら寝る」では、家事や連絡で埋まりやすくなります。昼や夕方に、20分でも横になる時間を先に置きます。
夜のメモは一行にする
起きた時間、哺乳の様子、気になった体調のどれか一つだけ書きます。完璧な記録ではなく、相談しやすくするためのメモです。
朝の役割を入れ替える
夜に授乳した人が、朝も最初から動く形にしないようにします。朝食、洗濯、片づけ、上の子対応などを一つ交代します。
不安を昼に相談する
夜中に授乳方法を検索し続けると、眠れなくなります。心配なことは昼間に一つだけ相談先へ持っていく形にします。
夜中に寝られないことが中心なら、夜泣きはいつまで続く?見通しと今夜できる小さな工夫 で、続く日への見方を整理できます。寝かしつけ中の怒りが強い日は、寝かしつけでイライラする夜に読むノート で、親子を守る止まり方を先に確認してください。
アサヒナメモ
授乳する人の睡眠は、家族の安全にも関わります。眠れる時間を「余ったら」ではなく、予定として置くことから始めて大丈夫です。
授乳と寝不足を相談する目安
授乳で寝不足がつらい日があることだけで、すぐに何かが決まるわけではありません。ただし、赤ちゃんの体調や親の心身の限界が重なるときは、家庭だけで抱えない方が安心です。
- 哺乳が明らかに少ない、飲む力が弱い、ぐったりしている
- 尿が少ない、脱水が心配、体重増加が気になる
- 発熱、呼吸が苦しそう、顔色が悪い、嘔吐を繰り返す
- 乳房の強い痛み、発熱、つらい張りなど、授乳する人の体調不良がある
- 眠れる時間があっても眠れない、涙が止まらない、不安が強い
- 赤ちゃんを傷つけそう、自分が消えたいと思うほど追い詰められている
赤ちゃんの体調が気になるときは、小児科やかかりつけ医、助産師、保健師、地域の小児救急相談を確認してください。夜間や休日で判断に迷う場合、地域により子ども医療電話相談事業(#8000)を利用できます。緊急の危険があると感じる場合は、119番につないでください。
授乳する人の体や心がつらいときも、相談して大丈夫です。自治体の子育て相談、産後ケア、保健師、医療機関、こども家庭庁の相談窓口など、家庭の外に支えを置いてください。消えたい気持ちや強い不調があるときは、医療機関やこころの相談窓口につながってください。
航平のひとこと
つむぎが眠れていないことを、『赤ちゃんが小さいから仕方ない』だけで済ませたくありません。授乳の相談先と、僕が持つ夜の作業を一緒に決めます。
朝比奈家メモ:授乳の前後を、ひとりにしない
その夜、りくは二度起きました。
一度目、つむぎは授乳をして、航平は水を置き、おむつを見ました。授乳が終わると、航平が哺乳瓶まわりを片づけ、りくを安全な寝床に戻します。つむぎは、スマホで次の検索をしそうになった手を止めて、横になりました。
二度目、うまくいかないこともありました。りくは少し泣き、つむぎはまた眠れなくなりそうでした。
それでも、夜の全部をつむぎ一人で持つ形ではありませんでした。
朝、航平は洗濯をやめることを決めました。つむぎはノートに一行だけ書きます。
「授乳で2回起きた。尿は出ている。私は昼に20分横になる」
授乳で寝不足がつらい夜に必要なのは、親の努力をさらに足すことだけではありません。授乳する人だけが起き続ける形を分けること。赤ちゃんと親の体調を見て、心配なら相談すること。翌日の負担を減らすこと。
授乳の前後を、ひとりにしない。そこから、夜は少し短くなります。
アサヒナメモ
今日の目標は、授乳の正解を決めることではなく、授乳する人の眠りを少し守ること。授乳前後の作業を一つ渡すだけでも、夜の形は変えられます。
授乳で寝不足がつらい夜は、愛情や努力だけで乗り切るものではありません。赤ちゃんの様子を見ながら、授乳の前後を分け、親の睡眠を予定に入れ、必要なら外の手につながってください。








アサヒナメモ
夜間授乳のつらさは、授乳そのものだけでなく、その前後の作業と孤独が重なって大きくなります。授乳する人だけが全部起き続ける形を、少しずつ分けていきましょう。